朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」(三月)
新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」。今月の兼題はサイトより三月の季語「三月」、花「ミモザ」、江戸の味「蛤汁」です。
【特選】
犬ふぐりガイドひとりに客ひとり 勇美
街歩きのツアーでしょうか、公園などのガイドツアーかもしれません。一対一だとガイドさんもお客さんも最初は少々照れ臭いものですが、慣れてくると和気あいあいと楽しいひと時になったに違いありません。それは「犬ふぐり」が教えてくれます。言葉を信頼したことで省略が効いた一句となりました。
春休み声変りして隣の子 さゆり
私の経験ですと、夏休み明けに声変わりした同級生に驚いたような記憶があります。夏休みではありきたりですが、春の一字が効いています。原句は「春休み声変りせし隣の子」。
花万朶四谷の鐘に揺れにけり 勇美
今にも零れんばかりの花を揺らす鐘の音。四谷が微妙に味を出しています。
象牙の歯覗くほほゑみ雛かな 勇美
精巧にできている立派なお雛様。年代もそうとう経っていることでしょう。「ほほゑみ」に代々の持ち主であった女性の魂が感じられる雛ならではの迫力ある句。原句は「象牙の歯のぞくほほゑみ姫の雛」。「姫の」とまで言わなくても伝わることを推敲で感じとりましょう。
【入選】
春光や脚美しきフラミンゴ さゆり
中七下五はあたりまえのことですが、季語「春光」で大きな句になりました。
復活祭パリの香りの砂糖菓子 勇美
「パリの香り」とは、実はよくわからないのですが、この句の中にあると納得できるから不思議です。
蛤や沸き立つ鍋に往生す 和子
鍋で蛤を煮ているだけですが、大げさな言い回しで愉快な句になりました(蛤には気の毒ですが)。
言葉に無駄がない、蛤の存在感を捉えたしっかりした一句です。原句は「蛤の沸き立つ鍋に往生す」。このままでもOK。
何となくそつと髪撫で雛納 さゆり
年に一度だけ出して飾りすぐに仕舞う雛人形は、考えてみればかなり独特な人形です。そんな雛人形を慈しむ作者の気持ちが表れた一句ですが、「何となく」は残念。「指先でそつと髪撫で雛納」など一考を。
名も知れぬ草草青み朝日さす 和子
芽生えた草が大地を緑に染めていく春。そこに朝の日が射す束の間の感動を言い留めました。
花満ちて月太りゆく別れかな 光枝